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リスク・マネジメント

リスク・マネジメント

 世はまさに情報化の時代である。コンピュータとインターネット、すなわちICT(情報通信技術)の進展が著しい。これに伴って、子どもの居場所を把握するサービスが活気づいている。全地球測位システム(GPS)やICタグ(電子札)を活用して、子どもの位置情報を得ようというわけだ。

 確かに、現代社会にあっては、最新のハイテク機器を利用しない手はない。しかし、その立ち位置を見間違えると、子どもをかえって危険な状況に追い込むことにもなりかねない。

 「危機管理」と呼ばれるものには、危機が起こる前の「リスク・マネジメント」と、危機が起こった後の「クライシス・マネジメント」の2種類がある。両者は安全確保における車の両輪だが、その決定的な違いは、リスク・マネジメントは被害をゼロにできるが、クライシス・マネジメントは被害をゼロには戻せない、ということだ。

 ICTを活用した子どもの見守りは、カテゴリー的には、クライシス・マネジメントに属する。防犯ブザーや「大声で助けを呼ぶ」「走って逃げる」といった護身術と同類だ。これらはすべて襲われた後のことであり、犯罪はすでに始まっている。ICTを活用した子どもの見守りも、「ここでいなくなった」「ここへ連れて行かれた」、そして最悪な場合、「ここで殺された」が分かるだけである。

 そもそも、子どもの連れ去り事件の過半数は、だまされて自分からついていったケースだ(警察庁「略取誘拐事案の概要」)。宮崎勤事件も、神戸のサカキバラ事件も、奈良女児誘拐殺害事件も、だまして連れ去ったケースである。クライシス・マネジメントでは、こうした事件を防ぐことはできず、たとえ被害を免れてもトラウマ(心的外傷)は残る。

 これに対し、リスク・マネジメントなら、事件そのものを防ぐことができる。なぜなら、リスク・マネジメントは、犯罪者に襲われたらどうするかではなく、犯罪者に近づかれないためにどうするか、というアプローチだからだ。つまり、リスク・マネジメントだけが、「防犯」の名に値するのである。

 リスク・マネジメントで最も重要なことは「予測」である。危険を予測できれば、注意深くなったり、行動パターンを変えたり、環境を改善したりして、危機を回避できるはずだ。しかし、危険を予測できなければクライシス・マネジメントの出番になってしまう。
 
 危険を予測するためには、景色を診断して、犯罪者が現れやすい場所かどうかを見極める必要がある。その訓練方法が、「景色解読力」を高める「地域安全マップづくり」である。

 真の防犯を実現するためには、「防犯」と名のつく対策が、リスク・マネジメントなのか、それともクライシス・マネジメントなのかを見分けることから始めなければならない。


立正大学教授(犯罪社会学)
小宮信夫

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