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地方公共団体の防犯に関する取組と共同体論

地方公共団体の防犯に関する取組と共同体論

1.防犯まちづくりとセーフコミュニティ
 まちの防犯を考える上で鍵となる概念であるCPTED(防犯環境設計)ではハード面とソフト面との両者への対応が重要とされ、日本の行政機関でもそのような認識が高まっている。例えば、警察庁・文部科学省・国土交通省が協働して作成した「安全で安心なまちづくり~防犯まちづくりの推進~」(1) では次のような記述がある。

 “身近な犯罪を抑止するには、住民・警察等の様々な主体により従来から行われてきたソフト面の防犯活動をより一層推進するとともに、住宅・学校・公共施設等の整備や管理等のハード面の取り組みを推進することが重要です。すなわち、従来は接点の乏しかった防犯活動とまちづくりを相互に組み込み、犯罪が起こりにくく犯罪に対して抵抗力のあるまちづくりを行う『防犯まちづくり』を推進することが求められています」「まちづくりは、地域住民等が主体的に取り組むべきものであって、これは防犯まちづくりにおいても変わりません。住民の意向や地域の状況などを尊重して取り組むことが重要です”

 ここにあるとおり、各主体間での連携を確保しつつ、地方公共団体及び住民が防犯まちづくりへの取組を積極的に行うことが期待される。また、防犯まちづくりのアプローチとCPTEDとの関係を図示すると以下のとおりである(2) 。

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 では、実際に地方公共団体が防犯まちづくりを推進する際にはどのようなポイントが重要となるのか。
 ここで「セーフコミュニティ」(安全都市)という考え方を紹介したい。これは、自治体や地域住民が防犯意識を持ち、共に安心で安全なまちづくりを目指している地域社会のことであり、1970年代後半にスウェーデンで提唱された概念である。世界保健機関(WHO)とスウェーデン王立カロリンスカ研究所が共同で設立した「地域の安全向上のための協働センター(WHO Collaborating Centre on Community Safety Promotion)」が自治体に対してセーフコミュニティであることを認定している。そして、認定の際には以下の7つの指針が参照されており、これが防犯まちづくりにおいても重要なポイントとなるだろう。
① コミュニティにおいて、セーフティ・プロモーションに関連するセクションの垣根を越えた組織が設置され、それらの協働のための基盤がある。
② 全ての性別、年齢、環境、状況をカバーする長期にわたる継続的なプログラムを実施する。
③ ハイリスクグループと環境に焦点を当てたプログラム、及び弱者とされるグループを対象とした安全性を高めるためのプログラムを実施する。
④ 根拠に基づいたプログラムを実施する。
⑤ 傷害が発生する頻度とその原因を記録するプログラムがある。
⑥ プログラム、プロセス、そして変化による影響をアセスメントするための評価基準がある。
⑦ 国内及び国際的なセーフ・コミュニティネットワークへ継続的に参加する。

2.地方公共団体の取組の分析
 一般社団法人日本セーフコミュニティ推進機構によれば、日本では16の地方公共団体がセーフコミュニティに認定されている(3) 。ここでは、その中の一つである神奈川県厚木市を例にとって、(1)なぜセーフコミュニティの認証を得ようとしたか、(2)実際の取組及び効果の2点について分析してみることとする。
(1)動機づけ
 厚木市が認証を得たのは平成22年であるが、市の取組として初めて発表されたのは平成20年の小林市長による施政方針の中である。そこでは次のように述べられている(下線は引用者)(4) 。
  “これからのまちづくりは、住民の意思と参加により自治体運営を行う「住民自治」の確立がなにより重要であり、平成20年度を「市民協働元年」と位置付け、市民協働を単なる理想や理念にとどめることなく着実に推進し、「みんなでつくろう元気なあつぎ」を体現してまいります。
そのための取組として、第一に……。
第二に、安心で安全なまちづくりは、誰もが望むところであり、まちの  にぎわいや発展のためには欠くことのできないものであります。事故やけがは、偶然の結果ではなく、予防できるという理念の下、全市を挙げて地域住民と行政等が協働して「地域の誰もがいつまでも健康で幸せに暮らせるまち」を創るために活動し、世界に誇れる「安心・安全都市」としてW HO(世界保健機関)による「セーフコミュニティ」の認証を市民の皆様と共に目指してまいります。
こうした自治基本条例の策定やセーフコミュニティの認証取得には、市 民と行政が一体となった取組が不可欠であり、また、時間と労力を要するものではありますが、市民の皆様が将来に「希望」の持てる市民協働のまちづくりの礎となるものと確信しております”

 また、厚木市議会の平成20年2月定例会では次のようなやりとりがある(下線は引用者 )(5)。

◯井上武議員 
 WHOセーフコミュニティに関して質問していきたいと思います。……
今までも番屋とかを通じて安心安全なまちづくりという活動はされてきているわけですが、それとの違いというのはどこにあるのか、お聞かせいただきたいと思います。
◯小菅和夫安心安全部長 
まず、番屋等で基本的対策としてやっておりますのは犯罪抑止という部分でございまして、それにかかわる方々を対象にして組織編成をしながら対策をとっているということで、縦割りの形での安全対策、予防対策をとっているというのが現状の問題でございます。
 今回ご質問いただいていますWHOセーフコミュニティにつきましては、けがや事故の発生した原因などについては必ずしも把握されていない、あるいは把握されていても、それを地域の皆様とか行政がうまく活用していないということがあるのではないかということで、そういうけがとか事故が、いつ、どこで、どなたが、どういう形で発生をしたのかということを収集したり、あるいは分析したりして、それを予防対策に役立てていくということでございまして、それに対しては、先ほども申し上げましたけれども、あらゆる方々、例えば行政も当然ですが、学校だとか、消防だとか、医師会だとか、病院だとか、住民組織とか、そのような方々が一体になって取り組んでいただくということに大きな違いがあると思っています。

 これらの発言からは厚木市が、①原因分析に基づく犯罪の事前予防に力点を置いていること、②地域のあらゆるアクターを巻き込み行政と横の繋がりをもって犯罪予防を達成しようとしていることが分かる。前者については、「事後(刑罰)から事前(予防)へ」という環境犯罪学や「証拠に基づく政策立案(EBPM)」の考え方と整合していると言え、後者については、施政方針にも表れているように地方自治の本旨(憲法第92条)、すなわち住民自治の精神の反映であると言えよう。

(2)取組例とその効果
 厚木市によるセーフコミュニティの取組としては次の8つにまとめられる(6) 。

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 これを先に述べたCPTEDの要素、すなわち「監視性の確保」「接近の制御」「領域性の強化」及び「対象物の強化」(7) との関係で分析すると、パトロール(監視性の確保)や自転車ヘルメット着用運動(対象物の強化)等を除けば大多数は「領域性の強化」(地域の共同意識の強化)に関するものであることが分かる。

また、セーフコミュニティの取組前である平成19年から取組後の平成28年とを比較すると、刑法犯認知件数が3,773件から2,382件まで36.9%減少し、交通事故件数は1,899件から952件まで49.9%減少している。
 犯罪予防の効果についてはその因果関係が必ずしも明らかでなく、取組が本当に効果的であったのかを厳密に測定することは難しいが、これほど多くの件数が減少している現状からすれば一定の効果はあったと言って差し支えないだろう。他方、取組自体については「領域性の強化」に焦点が当たっているが、この点については留意すべきことがあると思われる(8) 。

3.理想の共同体像
 領域性の強化を最も推し進めるとどうなるか。一つの例がゲーテッド・コミュニティ(Gated community)である。これはまちの内部と外側の境界を明確に示し、門(ゲート)で囲むことにより外部の人間がまちに入れないようにしたものである。確かに外部からの侵入者を防げるので治安状況は向上するだろう。
 だが、多くの場合、そのようなまちに住むのは富裕層であるから、社会における富裕層と貧困層の分離も必然的に生じる。また、住民が自分たちが住むエリアにしか関心を持たずに地域(地方公共団体)全体に対して無関心となることが懸念される。ある社会学者は安全・安心のためには「富裕層と貧困層の分離だけでなく、そもそも、多様な人々が地域に共存している伝統こそ、最も大切なものである(9) 」と述べている。先の厚木市の例でも強調されていたのは「住民の意思と参加により自治体運営を行う『住民自治』の確立」である。住民相互の無関心、「我々」と「彼ら」との分断は住民自治に逆行するものであろう。
 東日本大震災以降「きずな」が強調されてきた一方で、地方の過疎化や高齢化は深刻な社会問題となっている。また、道州制の導入といった自治体の在り方を見直す動きも出てきている。さらには、安全保障や貿易等の国際関係といった文脈でも民族主義や保護主義が台頭してきている。これらに共通するのは私たちが生きる共同体はどうあるべきかという課題である。
 犯罪予防からやや話は脱線したが、犯罪予防の取組を企画・実施する上で留意すべきは、単独の視点で考えるのではなく大きな視点を踏まえることである。仮に犯罪予防という観点からまちを門で囲うことが効果的であったとしても、政策立案担当者はその波及効果まで見据えて妥当性を考えていくべきであろう。

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(1) http://www.mlit.go.jp/common/001244799.pdf
(2) 前掲注1「安全で安心なまちづくり~防犯まちづくりの推進~」1頁
(3) https://www.jisc-ascsc.jp/sc_japan.html
(4)https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/shisei/15001/seisaku/juuyou/houshin/p005399_d/fil/0065_023243_H20.pdf
(5) 厚木市議会議の「会議録検索」にて検索。https://www.city.atsugi.kanagawa.dbsr.jp/index.php/9354450?QueryType=New
(6) https://www.jisc-ascsc.jp/pdf/atsugi_pnf2017.pdf
(7) 前掲注1「安全で安心なまちづくり~防犯まちづくりの推進~」では「対象物の強化」については触れられていないが、これもCPTEDの4要素として通常掲げられる。例えば警視庁HPを参照。https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/kurashi/higai/akisu/taisaku1.html
(8) ただし、ここでの留意事項は厚木市の取組に対するものではなく、「3.理想の共同体像」で述べるように一般論としての指摘である。
(9) 河合幹雄『安全神話崩壊のパラドックス』(岩波書店、2004年)276頁

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