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大事なのは、検挙よりも予防

大事なのは、検挙よりも予防

 2005年に栃木県今市市(現日光市)の女児が下校途中に連れ去られ刺殺された事件で、容疑者がようやく逮捕された。そのこと自体は喜ばしいことだが、この事件から学ぶべき教訓が、あまり伝わっていないことは残念でならない。

 事件当時、誘拐現場を2度歩いた。被害女児にとって登下校の近道になる場所には、落書きや不法投棄された粗大ゴミなど、心理的に「入りやすく見えにくい場所」だと犯罪者に思わせてしまうシグナルがあった。

 通学路付近の高速道路をくぐるトンネルの壁面には落書きがあり、通学路沿いの宅地分譲地には、冷蔵庫、自転車、タイヤ、洗濯機、自動車、コンピュータなどが不法投棄されていた。この分譲地は、分譲後に開発が放棄されたため、人家はなく、荒れ放題になっていた。

 こうした場所は、割れ窓理論(犯罪機会論のソフト面)が最も危険視する場所だ。割れ窓理論によると、落書きや不法投棄といった「小さな悪」の放置が人々の罪悪感や地域の秩序感を弱め、その結果、「小さな悪」がはびこるようになり、そのことが、犯罪が成功しそうな雰囲気を醸し出し、凶悪犯罪という「大きな悪」を生み出してしまうという。

 そもそも、落書きが書かれたり、ゴミが捨てられたりするのは、その場所が、物理的に「入りやすく見えにくい場所」だからだ。さらに、捨てられたゴミが、いつまでたっても拾われないと、次から次へとゴミが捨てられるようになり、その場所は、心理的にも「入りやすく見えにくい場所」になってしまう。つまり、心理的に「入りやすく見えにくい場所」は既に、物理的に「入りやすく見えにくい」という条件を満たしていることが多く、危険性がより高い場所なのだ。

 しかし、心理的な「入りやすさ」「見えにくさ」は、物理的な「入りやすさ」「見えにくさ」よりも改善するのは容易だ。例えば、ゴミを拾うだけでも犯罪の機会を減らすことになる。

 こうした点が、この事件から学ぶべき最大の教訓である。しかし、「景色解読力」を高める取り組みは、事件後も一向に進んでいない。逮捕できたからといって喜んでばかりはいられない。大事なのは、検挙よりも予防であり、過去よりも未来なのだから。


立正大学教授(犯罪社会学)
小宮信夫

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