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環境犯罪学の実践例としてのCPTEC(防犯環境設計)

環境犯罪学の実践例としてのCPTEC(防犯環境設計)

1.CPTED(防犯環境設計)について
 一般市民にとって身近な地域で発生する犯罪は最も恐怖を感じる対象の一つであろう。「体感治安」の悪化と相俟って行政側も課題と感じるようになり、2000年には警察庁が「安全・安心まちづくり推進要綱」(1) を策定した。また、2002年には大阪府が、2003年には東京都がそれぞれ安全・安心まちづくり条例を制定するなど、国・自治体において身近な犯罪への対策に積極的に取り組み始めた。そこで鍵となる概念のひとつが「CPTED」である。これはCrime Prevention Through Environmental Design)の頭文字を取ったもので「防犯環境設計」と訳されることが多い。
 CPTEDはアメリカの犯罪学者レイ・ジェフリーによって提唱された概念で、1971年に「CPTED」という題名の論文で、建築構造などの都市における物理的環境が犯罪発生に与える影響を論じた。これは、犯罪空間という環境に着目し、事前介入による犯罪の予防を基本とする体系である「環境犯罪学」の系譜にあるコンセプトであると言えよう。犯罪が発生しにくい環境を創るために、人的な防犯活動(ソフト面)とあわせて、建物、道路、公園等の物理的な環境(ハード面)の整備、強化等を行い、犯罪の起きにくい環境を形成するという考え方であり、その特徴は①対象物の強化、②接近の防御、③監視性の確保、④領域性の確保にまとめられる(以下の警視庁HP掲載の図を参照 )(2)。

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 さらに、近年は物理的環境のコントロールに重点を置く考え方(第一世代のCPTED)に加えて、社会的環境も加味した上で社会的文化的な戦略を開発して犯罪機会を減少させようとする考え方(第二世代)も登場してきている(3) 。このようにCPTEDは現在進行形で議論が活発になっているものであるが、次に日本の公的部門との関わりについて分析してみることとする。なお、第二世代のCPTEDはセーフコミュニティや共同体論についての議論を惹起し得るものであるが、この点については別稿で論じることとしたい。


2.CPTEDと日本の公的部門との関わり
 防犯を所掌する公的部門としては第一に警察庁が想起されるが、CPTEDとの関係では前項で触れた「安全・安心まちづくり推進要綱」が挙げられる。これは警察庁が策定したものであり、その冒頭では「犯罪防止に配慮した環境設計活動(引用者注 CPTEDのこと)、すなわち安全・安心まちづくり」としてCPTEDと安全・安心まちづくりを同格で言い換えており、その意味で「安全・安心まちづくり推進要綱」とはCPTED推進要綱のことと言えよう。内容としては、「第1 『安全・安心まちづくり』の意義」において、「『安全・安心まちづくり』とは、道路、公園等の公共施設や住居の構造、設備、配置等について、犯罪防止に配慮した環境設計を行うことにより、犯罪被害に遭いにくいまちづくりを推進し、もって、国民が安全に、安心して暮らせる地域社会とするための取組のことをいう。これらは、各種社会インフラの整備を伴うこと、地域住民が日常利用する空間における安全対策であること等から、警察のみでその推進を行えるものではなく、都道府県や市町村等の自治体関係部局はもとより、防犯協会、ボランティア、地域住民等と問題意識を共有し、その理解を得て、関係者全体が一丸となって推進することが必要である。また、推進に当たっては、その地域の特性を尊重するとともに、長期的視点から粘り強く取り組んでいくことが求められる」とされており(下線は引用者)、公的部門と住民との協働が強調されている。
 次に警察白書(4) における記述の変遷について分析してみることとする。初めてCPTEDが登場したのは平成12年の警察白書であり、第1章「時代の変化に対応する刑事警察」の第2節「国民の期待にこたえる刑事警察に向けて」の中に登場する。具体的には「従来から、警察では、地域安全活動の推進、パトロールの強化等を進めてきたところであるが、これらの防犯対策のみならず、犯罪防止に配慮した環境設計活動『安全・安心まちづくりの推進』を行っている。『安全・安心まちづくりの推進』は、道路、公園等の公共施設や住居の構造、設備、配置等について、犯罪防止に配慮した環境設計を行うことにより、犯罪被害に遭いにくいまちづくりを行うもので、関係機関と共にその推進を図っている」という記述となっており、物理的環境を重視していることが窺われる。また、第1章という例年の白書において最も強調したい特集的単元に記述されていることから、新しいコンセプトへの期待も窺われる。
 平成12年以降3年間と直近3年間の警察白書においてCPTEDがどのように取り上げられたかをまとめると以下の表となる(筆者作成)。


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 より詳細にみれば、平成16年版警察白書では、施策として平成15年版に加えて「防犯モデル駐車場登録制度」にも言及され、平成18年版では「公共施設や住宅の安全基準の策定」も加わった。その後は基本的に同様の記述が続くが、近年の警察白書では「まちづくり」「防犯設備関連業界との連携」といった警察以外の組織を射程に入れた記述も増えてきている。また、「犯罪防止に向けた取組」というこれまで項であった括りが平成30年版では初めて節に昇格しており、事後対処でなく事前予防を重視してきていることが窺える
 他方で、警察白書においてCPTEDは一貫して物理的環境(ハード)のみが強調されており、社会環境にも着目する第二世代CPTEDは未だ浸透していないように思われる(もっとも様々な機関との連携が謳われている点は社会環境の改善に資するものともいえる)。
 なお、ここまで警察庁の施策についてみてきたが、CPTEDに基づいて住宅を設計する場合の指針としては国土交通省が策定した「防犯に配慮した共同住宅に係る設計指針」(5) がある。また、自治体と協会との協働という例としては、NPO法人広島県マンション協会の要望に応じて広島県が設立した「広島県防犯マンションモデル登録制度」というものがある。この制度は後に政府の犯罪対策閣僚会議の「安全・安心なまちづくり全国展開プラン」において「防犯優良マンション認定制度」(6) として国の制度に繋がった。国の指針を前提として自治体が主体的に制度を作り、それがまた国のレベルでも制度化されるという相乗効果を生んでおり、理想的な例と言えるだろう。


3.CPTEDの課題
 以上みてきたとおり、CPTEDは日本の公的部門においても重要視されており、実際に具体的取組も進んでいるが、ここではCPTEDによる犯罪予防の課題に触れて本稿を閉じることとしたい。
 まず第一に、実証的研究が乏しいことである。これは犯罪学一般にも通じる点であるが、政策は常に効果を検証し有効性を確認する必要があり、政府を挙げた統計的調査が望まれる(7) 。
 次にCPTEDの4つのポイントのうち「監視性の確保」は最も効果が期待されるポイントであるが、本来は広く「人の目による監視」を意味しているにもかかわらず、日本の場合は防犯カメラによる監視のみが強調されすぎる嫌いがある(8) 。社会を構成する人々の視界が通ることを確保することをより意識することが重要である。また、防犯カメラは犯罪者に犯行を抑止させるものでなければならないため、隠しカメラにせずに設置を大々的にアピールする必要があるが(9) 、至るところに防犯カメラが設置された場合プライバシーとの関係が問題となってくる。さらに、防犯カメラは予防だけでなく事後対処にも大いに活用されていることは広く知られているところであるが、徹底した映像確認には相応のコストがかかることから実際は重大犯罪にしか活用されないことも多い。警察の人的資源にも限りがあるため、重要な犯罪に資源が集中されることは想像に難くない(10) 。
 第三に、「監視性の確保」のみならず、「接近の防御」「領域性の確保」においてもその実施の仕方によっては、人々のコミュニケーションや信頼関係の妨げになり、閉塞感の強い不自由な生活をもたらすといった批判がある。ゲイテッド・コミュニティなどは分断を促進するとも言われている。
 これらを克服するためには、第二世代のCPTEDの考え方にも配意しながら、セーフコミュニティのアプローチについて理解を深め、各自治体や地域ごとに実践することが重要である。多様性が重視される現代であるからこそ、一層各人が共同体の在り方について考えることが求められる。
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(1)その後何度か改正がなされており、現在は平成26年改正版が最新である。https://www.npa.go.jp/pdc/notification/seian/seiki/seianki20140828.pdf
(2)https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/kurashi/higai/akisu/taisaku1.html
(3) 守山正・小林寿一『ビギナーズ犯罪学』(成文堂、2016年)402頁。
(4) https://www.npa.go.jp/publications/whitepaper/index_keisatsu.html
(5) http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/press/h12/130323-3.htm
(6)https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki26/theme_c/pdf/h1804_03.pdf
(7) 科学警察研究所に所属する研究者らによる被収容者を対象とした実証的調査として、例えば以下のものがある。「犯罪者の視点から見た防犯環境設計の有効性の検討」http://www2.cpij.or.jp/com/ac/reports/8-2_76.pdf
(8)前掲注3『ビギナーズ犯罪学』428頁。
(9)小宮信夫『犯罪は予測できる』(新潮社、2013年)97頁。
(10)河合幹雄『安全神話崩壊のパラドックス』(岩波書店、2004年)225頁。

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